いつか、劇場という船に「マスト」を

~倉敷市児島市民創作ミュージカル「マスト」

上演中止について~

 3月21日・22日倉敷音楽祭の市民参加部門として上演する予定だった創作ミュージカル「マスト」は、新型コロナ感染防止のための倉敷音楽祭の中止を受けて、10月24日・25日に公演を延期していました。しかしながら、昨今の岡山県や全国の感染状況の悪化に伴い、参加者・観客の双方の安全を確保することが困難と考え、断腸の思いではありますが、公演を中止することを決断いたしました。
 以下は2月末からの私共の取り組みと、そこに至った経緯ですが、長文でございますので、もしよろしければお読みくださいませ。

 

2月末には岡山県での感染者は確認されておらず、新型コロナに対する見方も様々で、延期の時期については本年10月と2021年3月という案が出ました。
 ただ、参加者の参加可能な時期が10月の方が多く、またこのころには感染の状況も落ち着いているのではないかという希望的観測と、モチベーションが下がらない早い時期での公演をという多くの方々の声もあり、10月に決定いたしました。
 その後、学校は全国一斉休校となり、緊急事態宣言も発令され、稽古を始めることができなかったのですが、力を落とさないために精一杯の方法を模索しました。とりあえず、4月からはオンラインの稽古、5月にはYouTubeで、参加者の個別に撮影した歌をコーラスにまとめて、配信するということなども行い、来る感染の収束を待っておりました。
 宣言の解除を受け、6月にはリアル稽古ができるようになりましたが、総勢60人を超える参加者を一堂に集めることは、感染対策上できるはずもなく、時間と人数を大幅に絞って、稽古場もいつもの体育館ではなく、半野外でソーシャルディスタンスと徹底的な消毒作業も行ったうえでの制約の多い稽古でした。制約が多いと言っても実際の稽古ができるのは、本当に楽しく、このまま好転していくことを誰しもが願っていました。おりしも、国の方から演劇等の劇場公演におけるガイドラインも発表になり、感染対策を十分に行い三密を避け、観客を大幅に絞っての公演はできることになりました。そのためわが制作委員会でも、上演のために必要な人員確保や方策について、議論を重ね、準備に乗り出していたところでした。
 ところが、7月に入り、感染状況は急速に悪化し、岡山県でも感染者が春以上のスピードで増え始め、東京のプロの演劇公演でもクラスターの発生や俳優の感染が相次ぐようになりました。
 そこで制作委員会としては、参加者の皆さんの忌憚のない意見を聞かせてもらって再度参加希望を取り直すことにしました。全員の参加にまでは至らなかったのですが、オンラインでの意見交換を行い、それぞれの立場での思いを聞かせていただきました。
そこで話されたことは、参加・不参加にかかわらず、皆さんの思いは共通しているということでした。それを鑑み、この状況下での公演は不可能と判断するに至り、中止とさせていただくことになりました。判断の決め手となった理由は以下のようなことです。

① 感染は春の状況より悪化している中、参加者は皆アマチュアであり、それぞれの仕事(医療従事者や介護施設の職員も少なからずいる)や学業を抱えている。高齢の家族を抱える家庭もある。ひとたび感染がこのグループ内で出れば、生命の心配はもとより、社会的な責任も極めて大きいこと。

② 脚本や演出の簡素化などの大幅な変更をし、観客数を3割程度にし、感染対策をしたうえで本番を行うことは可能かもわからないが、キャスト同士が密になったり接触したりすることは避けられず、また本番に至る長期間の稽古が十分できるとはいいがたく、その稽古中の感染リスクを払拭することができないこと。

③ ②のようなことで上演できたとしても、作品の完成度は当初とは比較にならないものになる可能性が高く、1年間真摯に準備をしてきた者にとって大変不本意であると同時に、観客に対しても大変申し訳ないこと。

以上のような理由から、「いつとは今わかるはずもないけれども、観客・キャスト双方が、安心して鑑賞でき、演じられる状況になった時に、やり直しましょう!」ということで、皆さんの意見が一致しました。足腰が立つ間は必ず参加しますと笑わせて下さった参加者もいました。 
また、ここに至るまでには、何とか上演をということで、大変色々な案が出ました。
例えば、本番通りの照明や音響などを入れたうえで、映画やドラマのつくり方をまねてシーン割をし、参加者同士の接触を可能な限りなくしながら、映像として無観客で上演し、YouTubeに配信してはという案なども出ました。
 しかし、すべての案でネックになったのは、稽古に長時間を費やさなければ上演が無理という舞台芸術そのものが持つ難しさと、その間の感染の可能性への危惧でした。
中止という苦渋の決断を出さざるを得なかったことを、舞台関係のお手伝いを頂いている業者の皆様や、楽しみにお待ちいただいていた皆様には心からお詫びするとともに、またいつか、この舞台を披露するために、多くの困難は予想されますが、精いっぱい可能性を探っていくことをお約束して、今回は、心ならずものご報告とさせていただきたいと思います。
 どうぞ皆さま、いつか、劇場という船に「マスト」を掲げ帆を張ると聞かれたら、お誘いあわせの上、ご鑑賞いただけますように心からお願いして、ひとまず、しばらくのお休みを頂かせていただきます。

 

 

 ここまでの長文をお読みいただき、本当にありがとうございました。

2020.7.27
児島市民創作ミュージカル制作委員会

 

※ なお、チケットの払い戻しなどにつきましては、このHP上で近日中にご報告いたします。